これだけは知っておきたいF1初心者向けガイド

自動車レースの最高峰であるF1は、日本国内では1990年代や2000年代の全盛期と比べて人気が低迷していますが、近年の世界的な人気上昇に合わせ、日本でも若い人を中心にF1に興味を持つ人が増えてきています。F1は単に車を速く走らせるスポーツではなく、最先端技術や戦略的な駆け引きなどの様々な要素が絡み合う魅力があります。このF1初心者向けガイドでは、F1を観戦するうえで知っておきたい基本的な知識を紹介します。
なお、記載時点(2025年シーズン開幕直前)での情報を元に構成しているため、閲覧時期によっては情報が古くなっている可能性があります。いつ読んでも正しい情報となるような記載の工夫はしていませんのでご了承ください。
F1の基本
F1初心者向け知識の中でも特に絶対に知っておきたい知識について先にまとめます。それぞれ詳細は後に続く章で解説しています。
F1とは
F1は「世界最高峰のモータースポーツ」と評される自動車レースシリーズで、10チーム20人のドライバーが世界各地のサーキットでレースをしながら、年間チャンピオンを目指す世界選手権のことです。正式名称は「フォーミュラ・ワン」(Formula 1)と言い、FIA(国際自動車連盟)が運営しています。
「スーパーライセンス」という優れた成績を収めたドライバーにしか与えられない特別な運転免許を持った20人のドライバーが、所属チームが用意したF1マシンを操りその速さを競います。サーキット1周の最速タイムを競う予選で決勝レースのスタート順位を決め、決勝レースではサーキットを何十周もしながらコース上のバトルやタイヤ交換の戦略でライバルを出し抜き、優勝や表彰台、そして上位のドライバーに与えられるポイントの獲得を目指します。
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現在のF1に繋がるレースシリーズは20世紀初頭にヨーロッパで始まり、世界選手権としての開催は1950年に始まりました。フランスやイギリスを起源とするスポーツのためヨーロッパでの開催が多いですが、アメリカ大陸やアジア、近年は中東での開催も増え、かつて行われていた南アフリカ大陸での開催の復活も検討されているなど、世界中で人気を博しています。
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F1マシンの特徴
F1マシンはレース専用に設計された1人乗りの車で、最高時速は370km/hにも達します。加速・減速や旋回速度もすさまじく、300km/h近いスピードでコーナーを曲がったかと思えば、数秒で100km/h以下まで減速します。このようなF1マシンを操るF1ドライバーたちはさながら戦闘機のパイロットといった感じで、急減速時や旋回時には5G(体重の5倍の重力)にもなる激しいGを受けながら、並外れた動体視力と瞬時の判断力で0.001秒を争っています。
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マシンはより速くそして安全に走るために最先端の技術が詰め込まれていますが、決められたルールの中で各チームが独自の開発を行っており、その年のマシンの出来栄えがドライバーの成績を大きく左右します。近年は環境問題への関心の高まりから、環境性能においても最高峰を目指しており、F1は自動車メーカーによる最新技術の研究開発現場になっているとも言えます。
開催スケジュール
1シーズンは3月~12月にかけて行われ、2025年は年間24戦で争われます。1箇所で行う一連のイベントを「グランプリ」(Grand Prix)と呼び、通常はフリー走行(練習走行)、予選(決勝のスタート順位決め)、決勝を、金曜日から日曜日にかけての週末に行います。決勝レース結果の上位10台にポイントが与えられ、全戦の合計ポイント数で年間チャンピオンを決定します。
グランプリはヨーロッパを中心に、中東、アジア、アメリカ大陸など世界中で開催されています。開催地によって気象条件やサーキットの特徴が異なり、タイヤやエンジンの性能を最大限に引き出すためにはその地に合ったドライビングやマシンセットアップが重要になります。
レギュレーション
FIAは競技の公平性のために「レギュレーション」を定めており、2種類に分けられます。スポーティングレギュレーション(競技規則)はグランプリ運営に関する規則が定められており、スタート手順やペナルティについて書かれています。テクニカルレギュレーション(技術規則)はマシン設計に関する規則が定められており、マシンの各パーツの大きさや位置、可動範囲などについて書かれています。その他、チームの予算制限について定めたファイナンシャルレギュレーション(財務規則)もあります。
F1を観戦する際に何が起きているのかを理解するにはスポーティングレギュレーションの知識が、どんなふうにマシンが設計されチーム間で差が出てくるのかを理解するにはテクニカルレギュレーションの知識が必要ですが、原文はとても長く難解です。
近年の日本勢
2025年シーズンにF1で戦う日本人ドライバーは角田裕毅1人です。角田は2021年にF1にステップアップしました。日本人や日本企業が所有するチームはありませんが、ホンダがパワーユニットの製造者としてレッドブル・レーシングをサポートしているほか、ハースF1チームの代表は日本人の小松礼雄が務めています。

F1を観戦する方法
日本国内でF1を観戦する方法は大きく分けて3つあります。全グランプリをテレビやインターネット配信で視聴する方法2つと、F1日本グランプリを現地で観戦する方法です。
日本国内では現在、レース全体を無料で視聴する方法はありません。英語実況付きのレースのハイライト映像はF1公式YouTubeチャンネルで公開されていますが、1時間を超えるレースが8分程度にまとめられており、フルで楽しむには不十分です。以前はフジテレビが地上波放送やBSでほぼノーカットの無料放送を行っていましたが、国内人気の低下に伴い終了となりました。現在は有料チャンネルや配信サービスとサブスクリプション契約して視聴することになります。
フジテレビNEXT
フジテレビNEXTは、フジテレビが放送している有料チャンネルです。フジテレビは1980年代からF1全戦中継を続けており、地上波放送が終了したあとはCSで放送を続けています。解説陣はF1中継開始当時からのベテラン解説者、現役レーシングドライバー、元F1メカニックなど多様なメンバーで構成され、専門性が高く現場に近い解説が魅力です。
後述のインターネット配信(DAZN)と比べて遅延が少なく安定しており、録画やディスク化ができるのも特徴です。一方で、中継映像に映っていないドライバーの状況が分かりにくい、CS(もしくはスカパーが視聴できるケーブルテレビ)の視聴環境が必要といった難点もあります。
DAZN
DAZNはスポーツ専門の配信サービスで、2016年から国内のF1中継に参入しました。インターネット配信のためデバイスを問わず視聴でき、サッカーなどの他のスポーツファンがF1に興味を持つきっかけにもなっています。初心者にも分かりやすい実況・解説が魅力ですが、各ドライバーのラップタイムや車載映像を一画面で見ることができるなど、多くの情報を見ながら実況・解説に頼らず自分で楽しみたい人にも向いています。
F1の下位カテゴリーであるF2・F3の配信もあるためモータースポーツを広く楽しむことができますが、インターネット配信のため通信状況や配信遅延の影響を受けやすい、見逃し配信の期間が終わると見返せないという難点もあります。
現地観戦
世界を転々とするF1ですが、日本でもグランプリが開催されています。2023年までは9月や10月に行われていましたが、2024年からは4月に行われるようになりました。日本グランプリは近年は三重県の鈴鹿サーキットで行われており、チケットを購入すればコースサイドに設けられた観客席でマシンの走行を目の前で見ることができます。
どんなスポーツでも迫力や臨場感を味わうには現地観戦が一番だと思いますが、F1の場合サーキットがかなり広いため、一箇所から見ているとレース全体の動きが見えにくいというデメリットがあります。初心者はまずレース中継を見てどんな点が現地で楽しめそうかを把握してから、実際に現地で観戦するのが良いと思います。
海外で行われるグランプリを現地観戦することもできます。春に行われるオーストラリア・グランプリや秋のシンガポール・グランプリは、日本人も多く訪れています。
チームとドライバー
F1は個人スポーツであり、チームスポーツでもあります。各チームがそれぞれ2人のドライバーを雇い、その2人の獲得ポイントの合計がチームのポイントとなるからです。ドライバーにとってチームメイトは最大のライバルですが、時にはチームの獲得ポイントを最大化するためにチームプレイが求められることもあります。

チーム
F1の参戦にはチーム単位でのエントリーが必要です。各チームには、ドライバーと無線で連携を取ったりレースの戦略を練ったりするエンジニア、マシンを組み上げ各サーキットに合わせてセッティングするメカニック、それらをまとめあげるチーム代表といった多くのメンバーが所属しています。グランプリに帯同するのは1チームあたり100人~200人程度ですが、各チームが研究開発やパーツの製造を行うファクトリーを含めると1,000人規模のスタッフを抱えていると言われています。

マシンはチームごとにカラーリングやスポンサーのロゴが異なっており、走行中でもチームを見分けられるようになっています。2025年シーズンには以下の10チームが参戦しています。
正式名称 | 通称 | |
---|---|---|
McLaren Formula 1 Team | マクラーレン | |
Scuderia Ferrari HP | フェラーリ | |
Oracle Red Bull Racing | レッドブル | |
Mercedes-AMG PETRONAS Formula One Team | メルセデス | |
Aston Martin Aramco Formula One Team | アストンマーティン | |
BWT Alpine Formula 1 Team | アルピーヌ | |
MoneyGram Haas F1 Team | ハース | |
Visa Cash App Racing Bulls Formula One Team | レーシングブルズ | |
Atlassian Williams Racing | ウィリアムズ | |
Stake F1 Team Kick Sauber | キックザウバー |
チームの運営主体の名前に加えてスポンサーのブランド名や企業名がチーム名に含まれることがほとんどですが、基本的にはチームの運営主体の名前で呼びます。
例えば、レッドブル・レーシングはオラクルがタイトルスポンサーですが、単に「レッドブル」と呼びます。キックザウバーはステークというオンラインカジノがタイトルスポンサーでチーム名となっていますが、賭博が法的に認められていない国での参戦のため「キックザウバー」を名乗ることになっています(元々「ザウバー」というチームだったため単に「ザウバー」と呼ぶこともあります)。

チームは自動車メーカーが自社で参戦しているワークスチーム(ファクトリーチーム)と、それ以外のプライベーターチームに分けられます。
2025年の参戦チームではフェラーリ、メルセデス、アルピーヌがワークスチームであり、フェラーリはF1世界選手権が始まった1950年から参戦を続けている伝統あるチームです。飲料メーカーでありながらホンダの技術協力を受けながらマシンを開発しているレッドブル、パワーユニットは他社から購入しているものの自動車メーカーのバックアップを受けているアストンマーティンもワークスチームとすることがあります。

プライベーターのうちマクラーレン、ウィリアムズ、ザウバーはチームの歴史が長く、マクラーレンはスポーツカーの製造も行っています。ハースは2016年から参戦している新興チームで、アメリカの工作機械メーカー創設者が立ち上げたチームです。
チームとコンストラクター
よくチームを指して「コンストラクター」(Constructor)と言うことがあります。コンストラクターはマシンの製造者のことで、現代のF1ではチームがマシンを製造することになっているため、ほぼチーム=コンストラクターと言って問題ありません。1981年まではコンストラクターが別のチームに車体を販売して別チームとして参戦することが可能であり、チームとコンストラクターは区別されていました。
マシンに搭載するパワーユニットは自動車メーカーが製造しているため、自動車メーカーがチームを所有している場合はチーム名=コンストラクター名となりますが、それ以外の場合はチーム名(車体の製造者名)の後ろにパワーユニットの製造者名が入ったものがコンストラクター名となります。例えばメルセデスのコンストラクター名は単に「Mercedes」ですが、ウィリアムズはメルセデスのパワーユニットを使っているため「Williams Mercedes」となります。
チーム | コンストラクター | |
---|---|---|
車体 | パワーユニット | |
マクラーレン | McLaren | Mercedes |
フェラーリ | Ferrari | |
レッドブル | Red Bull | Honda RBPT |
メルセデス | Mercedes | |
アストンマーティン | Aston Martin Aramco | Mercedes |
アルピーヌ | Alpine | Renault |
ハース | Haas | Ferrari |
レーシングブルズ | Racing Bulls | Honda RBPT |
ウィリアムズ | Williams | Mercedes |
キックザウバー | Kick Sauber | Ferrari |
世界選手権のポイントは厳密にはコンストラクターに与えられるため、例えばWilliams Mercedesの獲得ポイントが何ポイント、という形で集計し、1位のコンストラクターがコンストラクターズチャンピオン獲得となります。
ドライバー
各チームには2人ずつドライバーが所属します。各ドライバーは、「スーパーライセンス」と呼ばれるF1専用の運転免許を所持している必要があります。スーパーライセンスはレーシングドライバーが持つ中で最高のライセンスであり、F2などの下位レースカテゴリーや、インディカー、WEC(世界耐久選手権)といった他の主要レースシリーズで上位の成績を収めたドライバーにしか発給されません。
2025年シーズン開始時点でのドライバーは以下の20人です。レース中継の字幕ではアルファベット3文字で省略表示されることが多く、こちらも合わせて記載します。年齢は2025年1月1日時点です。
チーム | 省略名 | 名前 | 日本語表記 | 年齢 | 国籍 |
---|---|---|---|---|---|
マクラーレン | PIA | Oscar Piastri | オスカー・ピアストリ | 23 | オーストラリア |
NOR | Lando Norris | ランド・ノリス | 25 | イギリス | |
フェラーリ | LEC | Charles Leclerc | シャルル・ルクレール | 27 | モナコ |
HAM | Lewis Hamilton | ルイス・ハミルトン | 39 | イギリス | |
レッドブル | VER | Max Verstappen | マックス・フェルスタッペン | 27 | オランダ |
LAW | Liam Lawson | リアム・ローソン | 22 | ニュージーランド | |
メルセデス | RUS | George Russell | ジョージ・ラッセル | 26 | イギリス |
ANT | Andrea Kimi Antonelli | アンドレア・キミ・アントネッリ | 18 | イタリア | |
アストン マーティン | STR | Lance Stroll | ランス・ストロール | 26 | カナダ |
ALO | Fernando Alonso | フェルナンド・アロンソ | 43 | スペイン | |
アルピーヌ | GAS | Pierre Gasly | ピエール・ガスリー | 28 | フランス |
DOO | Jack Doohan | ジャック・ドゥーハン | 21 | オーストラリア | |
ハース | OCO | Esteban Ocon | エステバン・オコン | 28 | フランス |
BEA | Oliver Bearman | オリバー・ベアマン | 19 | イギリス | |
レーシング ブルズ | HAD | Isack Hadjar | アイザック・ハジャー | 20 | フランス |
TSU | Yuki Tsunoda | 角田 裕毅 | 24 | 日本 | |
ウィリアムズ | ALB | Alexander Albon | アレクサンダー・アルボン | 28 | タイ |
SAI | Carlos Sainz | カルロス・サインツ | 30 | スペイン | |
キック ザウバー | HUL | Nico Hulkenberg | ニコ・ヒュルケンベルグ | 37 | ドイツ |
BOR | Gabriel Bortoleto | ガブリエル・ボルトレト | 20 | ブラジル |
現役ドライバーの中で過去にワールドチャンピオンになったことがあるのは、フェルナンド・アロンソ(2005年・2006年)、ルイス・ハミルトン(2008年・2014年・2015年・2017年~2020年)、マックス・フェルスタッペン(2021年~2024年)の3人です。
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一方で代役出場やシーズン途中交代を除いたフルシーズン初参戦となるのは、リアム・ローソン、アンドレア・キミ・アントネッリ、ジャック・ドゥーハン、オリバー・ベアマン、アイザック・ハジャー、ガブリエル・ボルトレトの6人で、2023年末からドライバー変更が無かった2024年と打って変わってルーキーの多いシーズンとなりました。アントネッリに至っては、アロンソが初めてチャンピオンを獲得した2005年にはまだ生まれていません。
チーム間の移籍も多く、ハミルトンは6度のワールドチャンピオンに輝き最強のタッグであったメルセデスを離れ、フェラーリへ移籍しました。レーシングブルズでシーズン途中にデビューしたローソンはレッドブルへ昇格する形で移籍し、エステバン・オコンはアルピーヌからハースへ、カルロス・サインツはフェラーリからウィリアムズへ、ニコ・ヒュルケンベルグはハースからキックザウバーへの移籍となりました。
基本的には1年を通して同じドライバーを起用しますが、あまりに成績不振が続いたり、病気や他レースシリーズへの参戦などで欠場することになったりしたときは、代役を起用することで2台体制を維持します。レギュラードライバーに何かがあったときにすぐ代役出場ができるよう待機しているチーム3人目のドライバーのことを、「リザーブドライバー」と呼びます。
ドライバーの国籍は様々ですが、グランプリの開催数が多くモータースポーツが盛んなヨーロッパ出身のドライバーが多数を占めています。ドライバーの国籍は、イギリスが4人、フランスが3人、スペインが2人、その他のヨーロッパ諸国合わせて4人、オーストラリアが2人などとなっています。アジア系では日本から角田裕毅が、タイから1人が参戦しています。
グランプリのイベント
各開催地で行われる一連のイベントを「グランプリ」(Grand Prix)と呼びます。グランプリは通常金曜日から日曜日にかけての週末に行われます。F2・F3や、女性ドライバー限定のレースシリーズであるF1アカデミーが併催されることもあります。
各グランプリイベントは「セッション」と言い、「フリー走行」(Practice)、「予選」(Qualifying)、「決勝」(Race)の順に行われます。通常は金曜日の午前と午後にフリー走行1回ずつ、土曜日の午前にフリー走行、午後に予選、日曜日の午後に決勝が行われます。視聴者の多いヨーロッパとの時差や現地の気候を考慮して夕方から夜にかけてイベントを行うグランプリや、木曜日から土曜日の3日間で開催するグランプリもあります。
曜日 | セッション | 時間 | ||
---|---|---|---|---|
金曜日 | フリー走行1 | 1時間 | ||
フリー走行2 | 1時間 | |||
土曜日 | フリー走行3 | 1時間 | ||
予選 | Q1 | 18分 | 1時間 | |
Q2 | 15分 | |||
Q3 | 12分 | |||
日曜日 | 決勝 | 約1時間半 最大2時間 |
フリー走行
フリー走行は、各ドライバーとチームがマシンをコース特性に合わせてセッティングするための自由走行時間です。ドライバーは何周もしながらコースに慣れていき、チームはマシンの挙動やタイヤの発熱・劣化の状態を確認しながら、予選・決勝を戦ううえで最適な状態にセッティングしていきます。
フリー走行は1時間ずつのセッションが金曜日と土曜日に合わせて3セッションあり、それぞれ「P1」、「P2」、「P3」と呼ばれます。各チームはそれぞれ事前に用意してきたプログラムを元にセットアップを進めるため、フリー走行の結果順位は予選や決勝の結果とは直接は関係しません。燃料を多くは積まず新しいタイヤで走ればラップタイムは早く、燃料を多く積んで同じタイヤで走り続ければラップタイムは遅くなり、最速タイムだけを比較してもどの程度本気で走って出したタイムかが分からないからです。
予選
予選は、決勝レースのスタート順位を決めるためのセッションです。1周のタイムが早い(短い)順に先頭からスターティンググリッド(レースのスタート位置)が決まります。
予選は「Q1」、「Q2」、「Q3」の3つのセッションに分けて行われます。最初のQ1では全ドライバー20台が出場し、18分間のセッションのうちにタイムを記録します。残り時間が0秒になったときにタイムアタックを行っているドライバー全員がアタックを終えた時点で順位が確定し、16位~20位の下位5台はここで脱落となります。続いてQ2は残りの15台が15分間でタイムアタックし、ここでも下位5台が脱落となります。最後にQ3では10台が12分間でタイムアタックを行い、1位~10位までの順位を確定します。
順位 | Q1 | Q2 | Q3 |
---|---|---|---|
1 | VER | VER | VER |
2 | ALO | PER | PER |
3 | PER | HAM | NOR |
4 | LEC | NOR | SAI |
5 | PIA | ALO | ALO |
6 | SAI | SAI | PIA |
7 | NOR | RUS | HAM |
8 | BOT | PIA | LEC |
9 | HAM | LEC | RUS |
10 | RIC | TSU | TSU |
11 | TSU | RIC | 脱落 |
12 | RUS | HUL | |
13 | OCO | BOT | |
14 | HUL | ALB | |
15 | ALB | OCO | |
16 | STR | 脱落 | |
17 | GAS | ||
18 | MAG | ||
19 | SAR | ||
20 | ZHO |
これは2024年日本グランプリの予選結果です。例えば、バルテリ・ボッタス(BOT)はQ1で8位のタイムを記録しましたが、Q2で13位だったためQ3へ進出できませんでした。逆に、角田はQ1で11位でしたが、Q2で10位だったためQ3に進出できました。このように、安定して良いタイムを出すことが重要であり、いくら前のセッションで良い順位でも予選の各セッションで順位を上げられなければ意味がありません。
下位のチームにとってはQ2への進出が、中団のチームにとってはQ3への進出が、上位のチームにとっては決勝1位グリッドである「ポールポジション」(Pole Position)の獲得が目標になります。Q3に進むことがほぼ確実な上位チームにとってはQ1やQ2はQ3に向けた肩慣らしのようなセッションになりますが、下位チームの上振れ、天候、ドライバー自身のミス、最後のタイムアタックに向かう際の渋滞などによってQ3進出を逃すこともあり、気を抜くことはできません。
決勝
決勝は、いわゆるレースのことです。サーキットごとにあらかじめ決められた周回数を最も早く走り切った人が優勝となります。周回数は総距離が305km以上になる周回数に設定されますが、周回に時間がかかるモナコ・グランプリは例外として260km以上に設定されています。
レース開始時刻を迎えると、スタート順位に並べられたマシンは実際のレーススタートの前に「フォーメーションラップ」(Formation Lap)を行います。フォーメーションラップは各マシンがスターティンググリッドに着くための隊列走行で、スタート直後の激しいバトルに備えてタイヤやブレーキに熱を入れながらサーキットを1周します。この間にエンジニアやメカニックはコース上から退出し、レーススタートに備えます。
再びマシンがスターティンググリッドに戻って完全に停止すると、レッドシグナルが1秒ごとに合計5つ点灯し、全シグナルが一斉に消灯するとレーススタートです。ドライバーはシグナルに神経を集中させ、消灯とともに一斉にスタートしていきます。もしシグナルが消える前に発進してしまった場合、フライング(ジャンプスタート)となりペナルティの対象となります。

決められた周回数を最も早く走り切るということはつまり、ライバルとの相対関係で常に前にいることが必要となります。マシンのポテンシャルを引き出し、コース上での抜きつ抜かれつ、ピットストップのタイミングの前後による微妙なタイム差、時には天候の悪化や回復を先読みしたタイヤ交換など、あらゆる駆け引きをして少しでも前の順位でフィニッシュできるよう、各ドライバー、チームがしのぎを削っています。
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レース終了時にはチェッカーフラッグが振られ、チェッカーフラッグを受けたドライバーはゆっくりコースを1周してピットまで戻ってきます。上位3台のドライバーと優勝チームの代表者は表彰式に呼ばれ、トロフィーが授与されます。また、上位10台のドライバーとチームにはチャンピオンシップポイントが与えられ、全グランプリでの獲得ポイントの合計で年間チャンピオンを争います。そのため、常に良い成績を収め続けることがチャンピオン獲得や年間順位の上昇に繋がります。
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スプリント
2021年からは、「スプリント」(Sprint)と呼ばれる週末のフォーマットが一部のグランプリで導入されました。従来のスケジュールでは金曜日はフリー走行のみが行われ、土曜日や日曜日と比べ盛り上がりに欠けることが指摘されていました。そこで、通常レース距離の305kmより短い100kmのスプリントレースを土曜日に行い、ピットストップ無しの全速力走行に特化したレースとその予選を金曜日・土曜日に楽しめる形にしています。
スプリントフォーマットの週末は、金曜日の午前にフリー走行、午後に「スプリント予選」(Sprint Qualifying)、土曜日の午前に「スプリント」(Sprint)、午後に予選、日曜日に決勝、という形になります。通常3回のフリー走行が1回になるため、各ドライバーやチームはセットアップを固めきれず、番狂わせが起きやすくなります。
曜日 | セッション | 時間 | ||
---|---|---|---|---|
金曜日 | フリー走行1 | 1時間 | ||
スプリント予選 | SQ1 | 12分 | 44分 | |
SQ2 | 10分 | |||
SQ3 | 8分 | |||
土曜日 | スプリント | 約30分 | ||
予選 | Q1 | 18分 | 1時間 | |
Q2 | 15分 | |||
Q3 | 12分 | |||
日曜日 | 決勝 | 約1時間半 最大2時間 |
スプリント予選は、各セッションが「SQ1」、「SQ2」、「SQ3」という名称になります。各セッションの時間も短縮されるため、よりミスが許されない緊張感のある予選になります。
2025年は全24戦のうち6戦でスプリントが行われます。ミニ予選とミニ決勝が追加されるような形のため、チームやドライバーの負担が増える、決勝の展開が予測しやすくなるなどの欠点も指摘されていますが、F1シーズン全体のエンターテインメント性の向上に繋がっていると言えます。
年間スケジュールとチャンピオンシップ
2025年のF1世界選手権は、全24戦で争われます。それぞれのレースで上位10台にポイントが与えられ、全戦の獲得ポイントが最も多いドライバーがドライバーズチャンピオンとなります。
年間スケジュール
2025年シーズンは3月にオーストラリア・グランプリで開幕し、12月のアブダビ・グランプリまで続きます。日本グランプリは4月初旬に行われます。5月下旬まではアジアや中東、アメリカ大陸でのレースが続き、それ以降は9月までほぼヨーロッパでの開催が続きます。8月には3週間の夏休み期間があり、この間はチームのファクトリーも閉鎖され、強制休暇となります。
Rnd. | 決勝日 | グランプリ名 | 開催国 | サーキット 開催地 | 決勝開始 日本時間 | スプリント | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 03/16 | オーストラリア | アルバートパーク メルボルン | 13:00 | |||||||||||||||
2 | 03/23 | 中国 | 上海 | 16:00 | ● | ||||||||||||||
3 | 04/06 | 日本 | 鈴鹿 | 14:00 | |||||||||||||||
4 | 04/13 | バーレーン | バーレーン サヒール | 24:00 | |||||||||||||||
5 | 04/20 | サウジアラビア | ジェッダ | 26:00 | |||||||||||||||
6 | 05/04 | マイアミ | アメリカ | マイアミ | 29:00 | ● | |||||||||||||
7 | 05/18 | エミリアロマーニャ | イタリア | イモラ | 22:00 | ||||||||||||||
8 | 05/25 | モナコ | モンテカルロ | 22:00 | |||||||||||||||
9 | 06/01 | スペイン | カタロニア | 22:00 | |||||||||||||||
10 | 06/15 | カナダ | ジル・ヴィルヌーヴ モントリオール | 27:00 | |||||||||||||||
11 | 06/29 | オーストリア | レッドブル シュピールベルク | 22:00 | |||||||||||||||
12 | 07/06 | イギリス | シルバーストン | 23:00 | |||||||||||||||
13 | 07/27 | ベルギー | スパ・フランコルシャン スタブロ | 22:00 | ● | ||||||||||||||
14 | 08/03 | ハンガリー | ハンガロリンク モジョロード | 22:00 | |||||||||||||||
15 | 08/31 | オランダ | ザントフォールト | 22:00 | |||||||||||||||
16 | 09/07 | イタリア | モンツァ | 22:00 | |||||||||||||||
17 | 09/21 | アゼルバイジャン | バクー | 20:00 | |||||||||||||||
18 | 10/05 | シンガポール | シンガポール | 21:00 | |||||||||||||||
19 | 10/19 | アメリカ | アメリカズ オースティン | 28:00 | ● | ||||||||||||||
20 | 10/26 | メキシコシティ | メキシコ | エルマノス・ロドリゲス メキシコシティ | 29:00 | ||||||||||||||
21 | 11/09 | サンパウロ | メキシコ | インテルラゴス サンパウロ | 26:00 | ● | |||||||||||||
22 | 11/22 | ラスベガス | アメリカ | ラスベガス パラダイス | 37:00 翌13:00 | ||||||||||||||
23 | 11/30 | カタール | ルサイル | 25:00 | ● | ||||||||||||||
24 | 12/07 | アブダビ | UAE | ヤスマリーナ アブダビ | 22:00 |
基本的に1国1開催で国名がグランプリ名となりますが、複数開催や契約上の都合からグランプリ名が国名と異なることもあります。近年人気が高まっているアメリカでは3回開催されます。スプリントウィークエンドは、第13戦のベルギー・グランプリを除き序盤や終盤のヨーロッパ以外でのレースに割り当てられています。
決勝のスタート時刻は概ねヨーロッパ時間の日曜日の昼になるよう設定されており、日本時間では日曜日の22時にスタートする場合が多くなっています。シンガポール・グランプリやアブダビ・グランプリなど一部のグランプリでは、ヨーロッパ時間に合うように夕方や夜に決勝が開始するスケジュールになっており、「ナイトレース」や「トワイライトレース」と呼ばれています。

アメリカ大陸で日中に行われるグランプリの場合、日本時間では月曜日の深夜か早朝となり、リアルタイムでの観戦はしにくくなっています。ラスベガス・グランプリは現地時間で土曜日の夜に行われるため、日本時間では日曜日の昼となり見やすいです。
ポイントシステム
チャンピオンシップポイントは決勝レースとスプリントレースで与えられます。
決勝レースは、1位~10位でフィニッシュしたドライバーに以下のポイントが与えられます。
順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 | 11位以下 | ポイント | 25 | 18 | 15 | 12 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 1 | 0 |
---|
スプリントレースでもポイントが与えられ、上位8台に上から8ポイントから1ポイントまで与えられます。
順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位以下 | ポイント | 8 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 0 |
---|
もし獲得ポイントが同じドライバーがいた場合、より上位で入賞した回数が多いドライバーが上の順位になります。例えば、優勝6回のドライバーAと優勝5回のドライバーBが同ポイントになった場合、ドライバーAが上位になります。
コンストラクターのポイントは所属ドライバーの獲得ポイントの合計になります。もしシーズン途中で移籍したりリザーブドライバーとして複数のチームから出走したりした場合は、そのドライバーがそのチームで走った際の獲得ポイントのみがコンストラクターズポイントとなります。
マシンの構成要素とセットアップ
F1マシンは最先端の技術が詰め込まれた究極のレーシングカーであり、各チームが膨大な資金を投入してシーズンを通して開発を続けています。レギュレーションや開発予算という厳しい制約の中でいかに速いマシンを作るか、チームごとにたくさんのアイデアと技術が詰まっており、同じように見えるマシンでもチームごとに独自の特徴を持っています。ときにはレギュレーションの穴を突くような革新的な機構を搭載したマシンが現れ、他のチームがシーズン開始後にそれに追随するようなこともあります。
パワーユニット
F1マシンの動力部分は2014年からエンジンと「ERS」(エネルギー回生システム)のハイブリッドシステムが採用されており、「パワーユニット」(Power Unit)と呼ばれています。このうちエンジンは1.6リッターV6シングルターボを搭載しており、ERSの電気モーターの出力と合わせて推定1000馬力の出力を実現しています。

ERSには「MGU-K」と「MGU-H」の2種類があり、それぞれブレーキング時の運動エネルギーとエンジンの排気熱を電気に変換します。蓄えられた電気は加速時に放出され、以前と比べて省力化されたエンジンのパワーを補っています。パワーユニットを供給する自動車メーカーは、熱効率が50%を超えるほど高性能で、かつレースを台無しにしない高い信頼性を持つパワーユニットを作り上げる必要があるわけです。

ウィングとダウンフォース
F1マシンの前後には「ウィング」と呼ばれる大きなパーツが付いており、それぞれ「フロントウィング」、「リアウィング」と言います。ウィングは、走行中に正面から当たる空気がウィングの上下に分かれた際の圧力差からダウンフォース(下向きの力)を発生させ、押し付けられたタイヤが路面を掴むように走ることでマシンの安定感を向上させます。車体や各パーツは空力(空気力学)に基づいて設計されます。


2022年以降のマシンは車体全体でダウンフォースを発生させるグラウンドエフェクト構造が採用されており、マシンの底面と左右の形状が大きな羽のような形になっています。また、マシン最後部、リアウィングの下には「ディフューザー」と呼ばれる車体底面を流れてきた空気の吹き出し口があり、これも大きなダウンフォースを発生させています。
ダウンフォースが大きければ大きいほどマシンの旋回性能は高くなるため、なるべくウィングを立ててセッティングしたいところです。しかし、ウィングを立てるほど空気抵抗が大きくなり最高速度が低下する(ストレートで追い抜かれやすくなる)ため、コース特性に合わせてコーナリング重視なのかストレート重視なのか考えてバランス良くセッティングすることが、予選でも決勝でも速く走るために重要になってきます。
フロントウィングは他のマシンとのバトル時の接触などで破損することがあります。大きく壊れていなければ走り続けることはできますが、生み出されるダウンフォースは減ってしまうためピットインして交換することがあります。リアウィングやその他の空力パーツは交換が難しかったり時間がかかったりするため、レース中に破損した場合はリタイアに繋がります。
ステアリングホイール
ドライバーが車を左右に向けるために握るハンドルを「ステアリングホイール」と言いますが、ステアリングの役割は操舵だけではありません。ステアリングには大きな画面とたくさんのボタンやスイッチが付いています。

基本の運転操作であるギアシフトやクラッチの操作はステアリングの裏面にあるパドルで行いますが、その他にも前後のブレーキの効き具合を調整したり、ピットレーン走行時のスピードリミッターをオンにしたり、パワーユニットの出力モードを切り替えたりと、ステアリング上で様々な操作ができます。中央の大きな画面には現在のマシンの状態やレースコントロールからの指示が表示されます。ブレーキバランスなど1周の中で何度も切り替えを行うものがあるため、ステアリングに注目するとドライバーが忙しなく操作している様子を見ることができます。
サバイバルセル
ドライバーが乗り込むコックピットと一体になった車体中心の頑丈な構造物のことを「サバイバルセル」と言います。カーボンファイバーとアルミニウムを組み合わせて全体が剛性を持つように作られるその構造から「モノコック」とも呼ばれます。

反対に、サバイバルセルの外側に取り付けるパーツは脆く壊れやすい構造にすることで、クラッシュの衝撃を分散しドライバーを守ります。マシン側の安全性を高めることに加え、ドライバー自身もコックピットからの脱出テストに合格しなければならず、マシンから出火したときでも安全に退避できるよう訓練を重ねています。

マシンのセッティング
フリー走行では、サーキットの特性やドライバーのドライビングスタイルに合わせ、最も速く走れるようにマシンのセッティングを行います。セッティングの箇所は多岐に渡り、ウィングの角度、車高、サスペンションの硬さ、タイヤの空気圧など様々です。あらかじめコース特性やシミュレーター走行の結果を踏まえある程度セットアップをまとめた状態でフリー走行に臨みます。この最初のセットアップを「イニシャルセットアップ」と言います。
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マシンのセットアップが上手くいっているかどうかは、ドライバーの声から判断することができます。セットアップがはまらないとマシンは滑りやすくなり、1周をまとめあげることができずドライバーはフラストレーションを感じます。前後のタイヤのグリップ力の差により、ステアリングを切ったときに想像より曲がりすぎてスピンしやすくなる傾向を「オーバーステア」、逆にステアリングを切ってもなかなか曲がっていかない傾向を「アンダーステア」と言います。普通の自動車の場合はスピンすると危険なためアンダーステア寄りに作られていますが、レースの場合はオーバーステア寄りなマシンをスピンしないよう押さえつけながら走るスタイルのドライバーも多いです。
いくらセットアップはその場で調整可能とはいえ、マシンのベースの特性がドライビングスタイルに合っていないとどうしようもありません。各チームは所属ドライバーの好みに合うマシンを開発する必要があります。
タイヤ
F1マシンは4本のタイヤを装着して走行します。現在タイヤはピレリが供給しており、大きく晴れ用のドライタイヤと雨用のレインタイヤに分けられます。
ドライタイヤは表面に溝が無いスリックタイヤが採用されています。ドライタイヤには5種類あり、タイヤのコンパウンド(素材となるゴムの性質)が硬い順にC1~C5まで用意されています。1つのグランプリには気候やコース特性に合わせて5種類のうち3種類が持ち込まれ、硬い順に「ハードタイヤ」、「ミディアムタイヤ」、「ソフトタイヤ」と呼びます。一般に柔らかいタイヤはグリップレベルが高いため速く走れるものの耐久性が低く、硬いタイヤは耐久性は高いものの速く走るのには向きません。レースの中でこれらのタイヤをどう使い分けるかが戦略の鍵になります。
レインタイヤは2種類あり、小雨や少し濡れた路面用の「インターミディエイトタイヤ」と、大雨で路面の水量が多い場合の「ウェットタイヤ」が用意されています。インターミディエイトタイヤは溝が浅く、ウェットタイヤは深い溝が多数入っています。タイヤが許容する水量より多いとスリップして走れず、少ないとオーバーヒートしてすぐ劣化してしまうため、雨絡みの予選や決勝では少しの判断の遅れが結果に大きく影響します。

タイヤの種類が遠くからでも判別できるよう、側面のロゴの色が塗り分けられています。ハードタイヤは白、ミディアムタイヤは黄色、ソフトタイヤは赤、インターミディエイトタイヤは緑、ウェットタイヤは青となっています。
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サーキット
レース用に作られた周回道路のことを「サーキット」(Circuit)と言います。F1で使われるサーキットは全長が4km~6km程度のものが多く、ストレートを10個~20個くらいのコーナーで繋いだレイアウトになっています。サーキットによってコーナーの数、コース幅、路面の粗さ、高低差などが違うことで、そのサーキットが高速なのか低速なのか、テクニカルなのかシンプルなのかといった特徴を生み出します。
縁石
コーナーには縁石が設けられていることが多く、縁石に乗り上げながら走るほうが速く走れる場合は縁石を目いっぱい使って走ります。中にはコースをはみ出さないようにするために設置された背の高い縁石や、表面の凹凸が大きくマシンへダメージを与えやすい縁石があり、ドライバーは使える縁石と使えない縁石をフリー走行前に実際にコース上を歩きながら確かめています。

ランオフエリアとバリア
ブレーキングミスや接触などによりコースに留まりきれなくなったとき、すぐに壁や崖などがあると危険です。通常、コース脇には芝生が植えられ、壁までは距離が取られています。また、高速度域のストレートエンドや高速コーナー脇にはより広いスペースが確保され、一部はマシンを強制的に減速させるための砂利が敷かれたグラベルトラップや、コースアウトしたマシンが滑らずにコース復帰できるようアスファルトが敷かれたエリアがあります。こういった安全を確保するための退避用のスペースのことを「ランオフエリア」と言い、ドライバーの安全を守っています。
ランオフエリアでも減速しきれなかった場合、マシンは壁に激突することになります。その際の衝撃をなるべく和らげるため、事故が起きやすいと予測される場所にはタイヤバリアやテックプロバリアといった衝撃吸収のためのバリアが設置されています。

ピット
スタート・フィニッシュラインがあるメインストレートの脇には、各チームがマシンの整備を行う「ピット」(Pit)があります。各チームはそれぞれのガレージで整備を行いますが、レース中のタイヤ交換はガレージの外で行われ、このためにコースからピットに入って作業することを「ピットストップ」(Pit Stop)と言います。

常設サーキットと公道サーキット
サーキットは大きく常設サーキットと公道サーキットに分けられます。常設サーキットはレースのために建設されるもので、多くは郊外の広い土地が確保できる場所に建設されています。自然や土地の高低差を生かした自由なレイアウトが可能なためサーキットによって特色が生まれやすく、グランプリ全体の魅力に繋がっています。例えば、日本グランプリを開催している鈴鹿サーキットは8の字型のレイアウトになっており、ラップの途中で立体交差するのが大きな特徴です。

公道サーキットは普段は一般道路や公園の周回道路として使用されている道路を封鎖し、安全設備を追加したうえでサーキットとして活用されているものです。常設サーキットと比べてコース幅が狭い、ランオフエリアが狭く壁に激突しやすい、路面が滑りやすいといった特徴があり、ドライバーの腕が試されます。レイアウトの自由度が低いため単調なレイアウトになりがちですが、都市圏での開催が可能なため観客が集まりやすく、近年のF1では公道や半公道サーキットでの開催が増えています。
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レース展開・戦略
決勝レースは決められた周回数を最も早く走り切った人が優勝となり、走り切った順にそれ以降の順位が決まっていきますが、レーススタートからフィニッシュまで順位を左右する要素が多くあります。単純なマシンの速さだけではなく、ドライバーやチームのエンジニアの判断力、メカニックの腕、戦略の駆け引き、ときには運といった様々な要素がレース展開に関わっています。
スタート
レーススタートは、レースの中で最も順位が変動しやすいポイントです。予選でどんなに大きなタイム差をつけても、レーススタート時のグリッドは順位に基づいて決められます。そこでスタートに失敗すれば簡単に順位を落としてしまうというわけです。
レッドシグナルが消えるのに合わせ、ドライバーはクラッチを繋ぎ一気に加速します。加速の良し悪しでやや順位の入れ替わりが起きつつも、一気に変動があるのは最初のコーナーです。コース幅いっぱいに広がってコーナーに進入していくため、位置取りによってコーナーの立ち上がりの加速が鈍ったり、前のマシンに詰まって順位を落としたりします。また、最も接触が起きやすいのもこのタイミングです。まだ1位と最後尾のタイム差が少ないタイミングで修理のためのピットストップを余儀なくされると、その後のレース展開が大きく不利になってしまいます。ミスなく加速し果敢に順位アップを狙いつつも、他のマシンとの接触やスピンなどは避けなければなりません。

ピットストップ
レースで順位を上げるにはコース上で前のマシンを追い抜くことが基本ですが、空気の流れによって生み出されるダウンフォースが命のF1マシンは、前のマシンが後方に流す乱気流の中では挙動が不安定になり、前のマシンより早いペースで走れるマシンだったとしても追い抜くのは簡単なことではありません。そこで、ピットストップのタイミングの差を使ってコース外での順位アップを狙います。
走行を続けるとタイヤの劣化が進み、1周のペースは落ちていきます。また、ドライコンディションのレースでは2種類のタイヤコンパウンドの使用義務があるため、レースの途中で少なくとも1回はピットインしタイヤを交換することになります。タイヤは硬いほど長持ちし、柔らかいほどペースが良いため、この特性の差とピットストップのタイミングによって順位の変動が起こります。
現在のF1はレース中に給油作業は行わないためピットストップで行う作業はタイヤ交換だけであり、その静止時間は2秒台、早ければ2秒を切ります。もし順位争いをしている目の前のドライバーと同じ周にピットに入ってしまうと、前に出るにはピット作業時間で大きな差をつける必要があり、相手のミスが無い限り現実的ではありません。

そこで各チームは戦略を練り、ライバルとピットインのタイミングをずらして前に出ようと試みます。多く見られるのが「アンダーカット」という作戦で、相手より先にピットに入り新品タイヤに交換することで、劣化したタイヤで走る相手がピットストップするまでの間に順位1つ分のタイムを稼ぐ作戦です。ただし、相手の戦略やタイヤの劣化状況を見極めなければ相手より早く入ることはできず、逆にタイミングが早すぎれば交換後のタイヤで走る距離が相手より長くなり、レース終盤にペースが落ちてしまいます。また、ピットアウトした際に後方のペースが遅いマシンの車列に詰まって新品タイヤでもペースを上げられないリスクがあり、相手だけでなくレース全体の状況を注視して決断する必要があります。
アンダーカットの逆である「オーバーカット」は、相手よりも長くコース上に留まりタイムを稼ぐ方法です。相手が温まりの悪い硬めのタイヤを装着する、自分のタイヤがまだ劣化しきっておらず前のマシンがいなくなればペースアップできる、といった状況では、あえて相手に合わせず走り続け、相手が後方の車列に詰まっている間にタイムを稼げる場合があります。また、自分がピットストップした際に前に出れなくても、相手より劣化していないタイヤでペースを上げることができるため、レース終盤までに追いつけることもあります。
気温や路面の条件からタイヤの劣化が早いサーキットでは、2回以上のピットストップが必要になることがあります。ピットストップは20秒~30秒程度のタイムロスが発生するため、硬いタイヤで劣化を抑えてライバルよりピットストップの回数を減らすことにより、最終的に前でフィニッシュする作戦も取ることができます。
DRS
ピットストップで順位の変動があると言っても、やはりコース上の追い抜きが無ければ迫力がありません。前のマシンの真後ろについていくことが難しい現代のF1マシンでもレース中の追い抜きを可能にするため、「DRS」(空気抵抗低減システム)が導入されています。DRSはリアウィングの上部を寝かせることで空気抵抗を減らし、最高速度を上げることで追い抜きを促すシステムです。

各コースのストレート部分にDRSゾーンが設定されており、その手前にある検知ポイントで前のマシンから1秒以内の距離にいる場合に、ドライバーの操作によってDRSを使用することができます。DRSを使用するとストレートエンドでの速度が10km/h~20km/h程度速くなるため、ペース差があればブレーキングまでに前に出ることができます。順位変動が多くなりレースが活性化される一方で、比較的簡単に追い抜きができることによる見応えの低下が問題視されることもあります。
事故が発生したとき
クラッシュしたマシンが止まっているなどコース上に危険があるときは、その区間でイエローフラッグが振られます。これはドライバーに注意を促し、必要があれば停止できるようにするもので、区間内での追い越しは禁止されます。イエローフラッグ区間の終了はグリーンフラッグが振られることで示されます。また、フラッグは電光掲示板による標示も行われます。

クラッシュが激しく、マシンがそばを高速で通過するのが危険だったりマシンの撤去に時間がかかると予想されたりするときは、「セーフティカー」(Safety Car)と呼ばれるレースコントロール用の自動車が導入され、隊列の先頭を走りペースをコントロールします。
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セーフティカーが入ると全マシンのペースが落ちギャップも縮まります。ここでピットストップを行うと相対的にタイムロスが少なくなるため、元々ピットストップを予定していたタイミングにセーフティカーが出るとライバルに対して得することになります。タイムロスが減る利点を優先し、予定していたタイヤ交換のタイミングではなくても早めに交換してしまうこともあります。
ペースを落とさせたいもののセーフティカーを出すほどではない状態に対応するため、「バーチャルセーフティカー」(Virtual Safety Car)という仕組みも用意されています。これは全マシンに基準タイムが示され、セーフティカー先導時と同程度にペースを落とさせるものです。こちらは全マシンが同じペースで走るためギャップは縮まりませんが、レース戦略の視点ではセーフティカー出動時と同じ利点があります。
大事故や天候悪化によりレースの続行が不可能と判断された場合は、レッドフラッグが振られます。レースは中断され、全マシンが一度ピットレーンに戻ってきます。このときマシンの修復やタイヤの交換を行うことができるため、セーフティカーよりもさらにレース展開を大きく変えます。
ペナルティ
ドライバーやチームがレギュレーションに違反する行為を行ったときはペナルティが科されます。例えば、一方に過失のある接触を引き起こした、ピットレーンの速度制限を超過した、何度もコース外を走行しアドバンテージを得た、マシンの最低重量規定を下回ったなどです。
ペナルティにはいくつか種類があります。「タイムペナルティ」(Time Penalty)は、違反内容に応じて5秒間や10秒間静止させられるペナルティです。タイムペナルティの裁定が出てからピットストップの機会がある場合は、タイヤ交換作業を始める前にその秒数静止することで消化できます。ピットストップの予定が無い場合はそのまま走行を続け、レース終了後にレースタイムにその秒数が加算されます。レース終了までに裁定が間に合わなかった場合もレース後にタイムペナルティが出ることがあり、後続マシンとのギャップによっては順位が入れ替わります。
「ドライブスルーペナルティ」(Drive-Through Penalty)は、ピットレーンを通過させられるペナルティで、タイヤ交換などの作業はできません。ピットレーンは制限速度があるため、20秒程度のタイムロスになります。またタイムペナルティとは異なり、裁定が出て3周以内に消化しなければなりません。もしレース終了直前やレース後にドライブスルーペナルティ相当の違反が認められた場合は、レースタイムに20秒加算されます。
「ストップ&ゴーペナルティ」(Stop/Go Penalty)はさらに重い違反に対して科せられるもので、ピットで10秒間静止させられます。ドライブスルーペナルティと同様3周以内の消化が必要であり、タイムペナルティとは異なり静止後のピット作業も認められません。レース後の消化の場合は30秒加算となります。
レースを続けるべきでない違反を犯した場合は、ブラックフラッグが振られ失格となります。直ちにピットに戻り、レース結果から除外されます。
その他に、フリー走行や予選中の違反(他のマシンの走行を妨害するなど)や、規定回数以上のパワーユニット交換などに適用され、決勝レースのスタート順位を3グリッドや5グリッドなど降格させるグリッドペナルティや、ペナルティに対して与えられるペナルティポイントが一定数蓄積した際の出場停止ペナルティなどもあります。
違反行為に相当するインシデントが発生した場合、レースを運営するレースディレクターがスチュワード(レース審査員)に通告します。スチュワードはインシデントの詳細を様々な映像やデータから再確認し、ペナルティを科すかどうかや、どのペナルティを科すかを検討し、裁定を下します。スチュワードはグランプリごとにFIAが指名し、そこには元ドライバーも含まれますが、裁定の基準の曖昧さや一貫性の無さがたびたび問題になります。
日本勢の活躍
モータースポーツにおける日本の存在感は大きく、F1でもドライバーやパワーユニットサプライヤーとしての関わりがあり、チームスタッフも多く在籍しています。
角田裕毅
2025年のF1に唯一参戦している日本人ドライバーが、角田裕毅です。角田は2000年生まれの24歳(2025年シーズン開幕時点)で、2021年シーズンからF1の舞台で戦っています。4歳でカートに乗り始め国内レースで経験を積み、ホンダの育成ドライバーとしてヨーロッパに渡りました。ホンダと提携するレッドブルのドライバー育成担当の目に留まり、2019年にF3、2020年にF2、そして2021年にF1へと順調にステップアップしました。
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レッドブルのセカンドチームであるアルファタウリ(現在のレーシングブルズ)のドライバーとして起用され、2025年に同じチームで5年目を迎えます。チーム無線で激しく感情を露わにしたり重要な場面でミスをしたりするなど参戦序盤は未熟な面も見られましたが、年々成熟しそのユニークなキャラクターから海外のファンからも人気を集めています。レッドブルへの昇格こそ叶いませんが、下位チームに留まり続けるなかでも光る走りを見せてくれています。

ホンダ
ホンダは1964年にF1に初参戦してから何度も参戦と撤退を繰り返し、現在は2015年に復帰して以降の第4期となります。第2期はエンジンサプライヤーとして参戦し、1988年にはマクラーレン・ホンダとして全16戦中15勝するなど、圧倒的な強さを見せました。第3期の後半には「ホンダF1チーム」としてチーム運営も行いましたが、世界的な金融危機で業績が悪化し2008年末で撤退しました。

F1にパワーユニットが導入された翌年の2015年、再びマクラーレンとタッグを組んでパワーユニットサプライヤーとして第4期がスタートしました。しかし、1年の開発の遅れとマクラーレンの車体設計の制約により信頼性とパワーの両方が不足し低迷、マクラーレンとの提携は3年で終了しました。
2018年からトロロッソ(現在のレーシングブルズ)、2019年からはレッドブルにパワーユニットを供給し、レッドブルとの提携は2021年のマックス・フェルスタッペンのドライバーズチャンピオン獲得から4年連続チャンピオン獲得という形で成功を収めました(2023年は全22戦中21勝)。しかしホンダ本体としては2021年をもってF1活動を終了し、製造部門はレッドブルへ移管、モータースポーツ活動はホンダレーシング(HRC)に引き継ぐ形となりました。

レッドブルとの提携は2025年で終了しますが、パワーユニットのレギュレーションが大きく変わる2026年に、今度はアストンマーティンとタッグを組んでパワーユニットサプライヤーとして正式に復帰することになっています。
トヨタ
トヨタは2002年から2009年にかけてコンストラクターとしてF1に参戦していました。優勝こそ叶わなかったものの、何度も表彰台に上がる活躍を見せました。
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現在は直接はF1に関わっていないものの、モータースポーツ活動を行うTOYOTA GAZOO Racing(TGR)が2024年からハースと技術提携関係を結んでいます。ハースのマシンにはTGRのロゴが掲出されているほか、エンジニアやメカニックの派遣、トヨタ育成ドライバーがF1マシンで走行する機会の提供など、社内の技術者育成や日本のモータースポーツ全体の発展に繋がる活動を行っています。
チームスタッフ
ドライバーや企業として以外にも多くの日本人がF1の世界で活躍しています。ハースのチーム代表は小松礼雄が務めており、トヨタとの提携にも一役買いました。小松はF1のエンジニアを目指して1990年代に渡英し、2003年からF1チームでタイヤエンジニアを務めました。2016年、ハースのF1参戦にチーム創設から参加し、チーフレースエンジニア、ディレクターオブエンジニアリングを務め、2024年にチーム代表に就任しました。2024年はチーム内部の改善が功を奏し、前年から大きく成績を伸ばしました。
現在フジテレビNEXTで解説者を務めている白幡勝弘は、2022年までウィリアムズでメカニックを務めていました。2006年にチームに加入し、メカニックやピットストップでのタイヤ交換作業を担当しました。
タイヤエンジニアである今井弘は、ブリヂストンがF1のタイヤサプライヤーだった際にF1用タイヤの開発に携わったのち、2009年からマクラーレンに加入し、2020年からはディレクターオブレースエンジニアリングを務めました。2024年末でマクラーレンを去り、2025年はブリジストンのモータースポーツ管掌に就任しています。ブリジストンの将来的なF1への関与も期待されています。
近年のトピック
同ポイントで迎えた最終戦、最終ラップの結末(2021年)
2014年にパワーユニットが導入されて以降、高性能なパワーユニットを搭載したメルセデスが圧倒的な強さを誇り、特にルイス・ハミルトンは2016年にチームメイトに敗北した以外2020年までに6度のワールドチャンピオンを獲得しました。しかし、このハミルトン一強時代は2021年に終わりを迎えます。
2019年にホンダのパワーユニットに切り替えたレッドブルは、ワークス体制での開発でどんどん競争力を増していき、優勝争いができるようになりました。2015年に17歳の若さでデビューしたマックス・フェルスタッペンがチームを引っ張るまでに成長し、2021年にはついにチャンピオン争いに手が届きます。シーズン序盤から一進一退の攻防が続きましたが、シーズン中盤にはレースで接触し大クラッシュを引き起こしたり、チーム代表同士がメディアを使って舌戦を繰り広げたりと、絶対王者と若き挑戦者の構図で激しいチャンピオン争いが続きました。シーズン終盤は互いに他のドライバーが誰も追いつけないような驚異的な走りを見せ合いながら、なんと同ポイントで最終戦を迎えます。
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最終戦アブダビ・グランプリはハミルトンが優勢でレースが進みますが、レース最終盤に導入されたセーフティカーにより、首位を走るハミルトンのすぐ後ろに有利なタイヤを装着したフェルスタッペンが続く形となり、ファイナルラップにレースが再開されます。仮に両者リタイアとなっても優勝数からチャンピオン獲得となるフェルスタッペンは果敢に攻め込み、ブレーキングで強引にインを突いて前に出ることに成功し、そのままトップでチェッカーフラッグを受け自身初のワールドチャンピオンを獲得するという劇的な結末となりました。この年限りで表舞台から撤退するホンダにとっても、開発を前倒ししてのチャンピオン獲得となり、有終の美を飾りました。
最終盤のセーフティカーに関して、レースディレクターがエンターテインメント性を重視して早めにレースを再開する恣意的な運用をしたと物議を醸しますが、メルセデスの抗議は棄却され結果が覆ることはありませんでした。最終戦のファイナルラップのオーバーテイクでハミルトン一強時代が終わり新王者が誕生するという結末に、世界中が大興奮の渦に巻き込まれました。
ブラウンGPの奇跡(2009年)
ホンダは2000年にエンジンサプライヤーとして第3期F1活動を開始し2006年からはチームとして参戦しますが、2008年の世界金融危機による業績悪化により2008年末でF1から撤退しました。チームの資産は当時チーム代表を務めていたロス・ブラウンにわずか1ポンドで売却されたと言われています。チームは「ブラウンGP」という名前で再出発しました。

2008年のホンダは競争力不足に悩まされ、11チーム中9位に終わっていました。加えてチーム売却により新マシンの準備やスポンサー交渉もままならず、2009年シーズンも同じように低迷が予想されていました。しかし蓋を開けてみると、2003年からドライバーを務めてきたジェンソン・バトンがチームメイトを従えて開幕戦で優勝を飾ります。新規参戦チームがデビュー戦でワンツーフィニッシュを飾るのは、なんと1954年以来55年ぶりのことでした。
2009年はレギュレーションが大きく変わった年であり、それまで上位を占めていたフェラーリやマクラーレンなどのワークスチームが軒並み苦戦を強いられ、プライベーターチームに優勝のチャンスが巡ってきていました。そんななかホンダが撤退前に開発を進めていた2009年用のマシンにはレギュレーションの抜け穴を突いた巧妙なディフューザーが搭載されており、ライバルの一歩先を走っていました。バトンは開幕7戦中6勝を飾り、チャンピオンシップを大きくリードします。
ブラウンGPは資金不足で満足にマシン開発が行えず、同じく大躍進したライバルのレッドブルに先を行かれる場面が増え、シーズン中盤以降優勝から遠ざかります。しかし序盤に蓄えたポイントリードを最後まで守りきり、バトンは自身初のドライバーズチャンピオンを獲得しました。ブラウンGPとしてもF1史上初となるデビューイヤーでのコンストラクターズチャンピオン獲得となり、この奇跡の1年はおとぎ話のように語られています。
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1ポンドの価値だったチームは翌年1億ポンドでメルセデスによって買収され、現在のメルセデスに繋がっています。またこの年にドライバーズランキング2位だったレッドブルのセバスチャン・ベッテルは、2010年から2013年まで4年連続ドライバーズチャンピオンを獲得することになります。
40秒間のワールドチャンピオン(2008年)
2007年にマクラーレンでデビューしたハミルトンは、デビュー6戦目で初優勝を飾って以降、ルーキーながらチャンピオン争いを優位に進めていました。しかし最後の数戦でミスやマシントラブルに泣き、わずか1ポイント差でデビューイヤーでのチャンピオン獲得という快挙を逃します。チャンピオンを獲得したのはライバルであるフェラーリのキミ・ライコネンでした。
2008年シーズンも引き続きマクラーレンとフェラーリがチャンピオン争いを繰り広げ、ハミルトンは今度はフェリペ・マッサと対決することになります。最終戦を迎えた時点でハミルトンがマッサに7ポイント差を付けており、マッサは母国ブラジルで最低でも2位以上、優勝してもハミルトンが6位以下でないとチャンピオンになれないという難しい条件でした。
マッサは予選でポールポジションを獲得、ハミルトンは4位スタートとなります。決勝レースはスタート直前に大雨が降り、スタートが遅れる波乱の幕開けとなりました。マッサはトップを独走しハミルトンも4位を走行するなか、残り10周というところで再び雨が降り始めます。上位勢は続々とレインタイヤに交換しますが、残り周回数の少なさから中団勢がドライタイヤのまま走行を続ける賭けに出ます。これによりハミルトンは5位に落ちました。
ハミルトンは5位であればチャンピオン獲得となりますが、雨が落ちてきてからペースが上がらず残り2周でベッテルにオーバーテイクされます。この時点でチャンピオンの権利はマッサに移りました。そのままマッサがトップでチェッカーフラッグを受け、フェラーリ陣営はチャンピオン獲得を確信し大喜びします。しかし、最終コーナーでハミルトンがドライタイヤのまま走行しているドライバーをオーバーテイク、そのまま5位でフィニッシュし、奇しくも前年と同じ1ポイント差で当時史上最年少のワールドチャンピオンに輝きました。

マッサがフィニッシュしてからハミルトンがフィニッシュするまでわずか約40秒。マッサにとって厳しい条件を乗り越えて獲得できたはずの幻のワールドチャンピオンとなりました。表彰台の中央に立ったマッサは胸に手を当て、涙をこらえながら母国ブラジルのファンの歓声に応えました。
