F1タイヤレギュレーションの歴史(2007~2023)

F1では2007年以降、単一メーカーがタイヤを供給する方式(ワンメイク方式)となっており、全チームに同じ仕様のタイヤが供給されています。一方で、FIA側からの要望、タイヤメーカー側からの要望によってタイヤに関するレギュレーションは変更が重ねられており、タイヤのコンパウンドの種類やその名称・識別方法も年によって変わっています

このページでは、2007年以降のシーズンで供給されたタイヤについて、名称や識別方法をまとめました。合わせてタイヤに関するレギュレーションの変更点について年ごとに記載しています。

一覧表

サプライヤードライタイヤ
コンパウンド
←柔らかい 硬い→
レインタイヤ
コンパウンド
←浅溝 深溝→
持ち込まれる
ドライタイヤ
←柔らかい 硬い→
ドライ
セット
トピック
2007ブリヂストンスーパー
ソフト
ソフトミディアムハードウェットエクストリーム
ウェザー
オプションプライム14前年までに引き続きグルーブドタイヤ2007
2008エクストリーム
ウェザー
エクストリームウェザーにも白線を追加2008
2009インター
ミディエイト
ウェットオプションプライムスリックタイヤへ変更
レイン2種類の名称を変更
2009
201011フロントタイヤの幅を縮小
Q3進出者はQ3最速タイム記録タイヤで決勝出走
ドライ11セットに変更
2010
2011ピレリスーパー
ソフト
ソフトミディアムハードインター
ミディエイト
ウェット2種類
コンパウンド名称を
そのまま使用
サプライヤーがピレリに変更
コンパウンドの識別を側面に変更
2011
2012インター
ミディエイト
ウェットレイン2種類の識別色を変更2012
2013ハードハードの識別色を変更2013
2014Q3進出者はQ2最速タイム記録タイヤで決勝出走2014
20152015
2016ウルトラ
ソフト
3種類
コンパウンド名称を
そのまま使用
13ウルトラソフトを追加
持ち込みドライタイヤを3種類に変更
2016
2017タイヤの幅を拡大2017
2018ハイパー
ソフト
ハードスーパー
ハード
ハイパーソフト・スーパーハードを追加
ハードの識別色を変更
2018
2019C5C4C3C2C1ソフトミディアムハードコンパウンド名称をC1~C5に変更
識別名称・色を3段階に変更
2019
20202020
20212021
2022ホイールが13インチから18インチに変更
Q3進出者の決勝出走タイヤ制限が廃止
2022
2023C013
一部11
C0コンパウンドを追加
一部レースでドライ11セットに変更
2023

ここでは、複数コンパウンドの総称として晴れ用タイヤをドライタイヤ、雨用タイヤをレインタイヤと呼びます(レギュレーション原文においては「dry-weather tyre」「intermediate tyre」「wet-weather tyre」と区別されており、レインタイヤの呼称はありません)。

タイヤコンパウンドの識別方法について、タイヤの縁部分(ブリヂストン)または側面(ピレリ)の色を文字色で、タイヤの溝の色(ブリヂストン)を下線で示しています。

主な特徴と変更点

ブリヂストン時代

ワンメイク化

2006年末をもってミシュランがタイヤサプライヤーから撤退したため、2007年シーズンからはブリヂストンのワンメイクとなりました。引き続きグルーブドタイヤ(溝付きタイヤ)が使用されました。

ドライタイヤのコンパウンドは柔らかいほうからスーパーソフトタイヤソフトタイヤミディアムタイヤハードタイヤの4種類となりました。各グランプリにはこの中でブリヂストンが指定した2種類のコンパウンドが持ち込まれ、柔らかいほうをオプションタイヤ(ソフトタイヤとも)、硬いほうをプライムタイヤ(ハードタイヤとも)と呼びました。レインタイヤは小雨用の浅溝タイヤをウェットタイヤ(スタンダードウェットとも)、大雨用の深溝タイヤをエクストリームウェザータイヤ(エクストリームウェットとも)と呼びました。

溝への着色で識別

識別方法は、ドライタイヤはオプションタイヤの溝1本が白く塗られ、2008年はエクストリームウェザータイヤも中央の溝が白く塗られました。

2008年F1日本GPで使用されたオプションタイヤを装着しているF1マシン
2008年日本GPでは、オプションタイヤであることを示す白色の溝以外の全ての溝が緑色に塗られた特別タイヤが使用された(Morio CC BY-SA 3.0 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bridgestone_Make_Cars_Green_tyres_2008_Japan.jpg)

スリックタイヤへの変更とレインタイヤの名称変更

2009年からは、マシンの空力性能を落としタイヤのグリップで補うレギュレーション変更のため、ドライタイヤがグルーブドタイヤからスリックタイヤ(溝なしタイヤ)に変更されました。コンパウンドの種類に変更はありませんでしたが、溝による識別が不可能になったため、タイヤの縁部分を緑色にすることによってオプションタイヤプライムタイヤを識別できるように変更されました。2008年の日本GPで環境啓発活動「Make Cars Green」の一環で行われた識別ラインの緑色への変更を2009年も引き継ぐ形となりました。

レインタイヤについては、浅溝タイヤをインターミディエイトタイヤと、深溝タイヤをウェットタイヤと呼ぶように変更されました。ウェットタイヤについては溝による識別が続けられました。

縁の緑色でオプションタイヤを識別するようになった2009年のF1マシン
(Morio CC BY-SA 3.0 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Sebastian_Vettel_won_2009_Japanese_GP.jpg)

ピレリ時代

コンパウンドごとに色分け

2010年末をもってブリヂストンがタイヤサプライヤーから撤退すると、ピレリがその後を引き継ぎました。複数のコンパウンドの中からグランプリごとにサプライヤーが指定した一部のコンパウンドを持ち込むという方法は変わりませんでしたが、ピレリは持ち込むコンパウンドの中での識別ではなく、シーズンを通して固定されたコンパウンドの種類によって識別する方法を取り、これは2018年まで続きました。

ピレリはタイヤの縁ではなく側面ロゴへの着色で色分けを行いました。スーパーソフトタイヤは赤、ソフトタイヤは黄色、ミディアムタイヤは白、ハードタイヤはシルバーといった具合です。ミディアムタイヤの白とハードタイヤのシルバーが日光が当たると識別しにくいという問題を受けて、2013年からはハードタイヤがオレンジへ変更されました。レインタイヤについては2011年のみインターミディエイトタイヤが青、ウェットタイヤがオレンジとなっていましたが、2012年以降はインターミディエイトタイヤが黄緑、ウェットタイヤが青に変更されています。

コンパウンドの増加

ハードタイヤはなかなか使われる場面が無く、逆に市街地コースではスーパーソフトタイヤでも硬すぎるという声が聞かれたため、2016年シーズンからウルトラソフトタイヤ(紫)が導入されました。これに合わせ、各グランプリに持ち込むドライタイヤの種類を2種類から3種類に増やし、そのうちの最低2種類をレース中に使用するレギュレーションに変更されました。

2018年にはさらにハイパーソフトタイヤ(ピンク)とスーパーハードタイヤ(オレンジ)が導入され、ドライタイヤのコンパウンドは7種類となりました。スーパーハードタイヤにオレンジ色を譲ったハードタイヤは、新たにアイスブルーの識別色が与えられました。

2018年に使用された9種類のピレリタイヤ
2018年にはドライタイヤ7種類とレインタイヤ2種類が用意され「ピレリレインボー」と呼ばれた((C) Formula 1 https://www.formula1.com/en/latest/article.pirelli-reduces-tread-depth-for-barcelona-silverstone-paul-ricard.1GQZaZd5SwySs4mowkU2KA.html)

名称の単純化

7種類・7色となったタイヤコンパウンドはピレリ自ら「ピレリレインボー」と銘打っていましたが、モナコGPやアブダビGPの持ち込みタイヤがハイパーソフトタイヤウルトラソフトタイヤスーパーソフトタイヤとなるなど複雑で似た名称となり、どれが最も硬いコンパウンドなのかといったことを理解しにくいという問題がありました。安全性向上のためタイヤの耐久性を全体的に上げていたことも使用コンパウンドがソフト寄りになることに繋がり、7種類のコンパウンドをピレリ自身も使いこなせない状態となっていました。

2019年シーズンからは、コンパウンドを5段階に減らし、硬いほうからC1タイヤC2タイヤC3タイヤC4タイヤC5タイヤと呼ぶように変更されました。グランプリ中の識別については、持ち込む3種類をソフトタイヤミディアムタイヤハードタイヤと呼び分け、それぞれ赤、黄色、白が割り当てられました。持ち込むタイヤの中で識別できるようにするというブリヂストン方式の識別方法が9年ぶりに復活することになりました。

2023年シーズンからは、前年までのC1タイヤC2タイヤの間の硬さのコンパウンドを増やすため、C0タイヤが導入されました。グランプリ中の識別上の問題はありませんが、一度減らしたコンパウンドの種類が再び増加することになりました。

決勝スタートタイヤに関するレギュレーション

タイヤ自体の仕様変更のほかに、決勝レースのスタート時のタイヤ選択に関するレギュレーションの変更も行われてきました。

2010年~:Q3タイヤで決勝スタート

2010年シーズンから、予選Q3に進出したドライバーは、決勝をQ3で最速タイムを記録したタイヤでスタートしなければならなくなりました。決勝レース中の給油が禁止されたため、それに代わる不確定要素として上位スタートのドライバーの最初のピットストップを早めようという狙いでした。

2014年~:Q2タイヤで決勝スタート

2014年シーズンからこのレギュレーションは変更され、Q3進出ドライバーの決勝スタートタイヤはQ2で最速タイムを記録したタイヤになりました。Q3で上位を狙えないドライバーが、決勝を有利に進めるためにQ3でアタックをしない選択をすることが増えたためです。

2022年~:決勝スタートタイヤの制限撤廃

そしてこの決勝スタート時のタイヤを予選走行時のものとするレギュレーションは、2022年シーズンから廃止されました。マシン差によってミディアムタイヤでQ3に進めるドライバーが固定化され、Q2をソフトタイヤで通過したドライバーが前後のドライバーよりも決勝レースの戦略で不利になり、上位スタートのドライバーを不利にして不確定要素を増やすという本来の目的が果たせていなかったためです。これにより、予選は決勝のことを考えず純粋に1周を速く走る争いになりました。